嗚。

耳鳴り。酩酊。思考の残滓。
あまいにおいがするねって云われた。

重たくて甘い、ヴァニラとムスク。

うつくしいものが好きでかなしいものが愛しくて
僕等はひとり、痛みに耐えては苦しい吐息であいしていると呟いた。

ひとり。
ひとり。

…ふたり?

ふたりにはなれなかった。
どんなに願っても、どんなに祈っても僕等はひとりとひとりで
溶け合うことも混ざり合うこともできぬまま中途半端な笑顔で毎日キスをした。

春が好きで夏が嫌いで冬の終わりと秋には泣きたくなった。
雪の匂いと白い溜息と缶コーヒーで思い出して
真夏の日射しと蝉の悲鳴と夕方のぬるい風で忘れようと思った。

季節は巡る。そうして幾度目かの冬はまた来る。
留まることを知らない時は残酷で、塞がることなどないと思った傷口には引き攣れた痕だけが僅かに残っただけだった。

たった、それだけ。

授業中ふと彼女の香水の匂いが鼻先を掠めた気がして、ああもうそんなことはありえないのにと若干自嘲気味の苦笑を浮かべちいさく溜息をつく。

ねえ、君。
君は今でも僕のこと、覚えている?

世界の終わりを望んだ日々はもう過去で
ただその想いだけ、未だに僕の中でゆっくりと溶け続けてゆくよ。

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